2016-11-05

Author:マスタ

日雇い労働者とホームレスが集う東京最大のスラム街、台東区山谷地区を散策してきた

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探訪記

当たり前のように高度な教育を受け、当たり前のように仕事を見つけ、当たり前のように賃金を貰う。

先進国日本、世界3位の経済大国日本の国民として、当然の権利かの如く幸せな日常を謳歌する恵まれた僕ら。そんな僕らの裏で、同じ日本国民なのにも関わらず、着るものがなく、食べるものがなく、住むところさえおぼつかない暮らしを強いられている人々がいる。

東京都台東区山谷地区。「ドヤ」と呼ばれる簡易宿所がひしめきあい、健康的で文化的な最低限度の生活さえままならない日雇い労働者が暮らす街。大阪は西成区のあいりん地区と並ぶスラム街。そんな街を散策した記録を、ここに綴ろうかと思う。

 

山谷地区の最寄駅

上野駅からJR常磐線、あるいは東京メトロ日比谷線に乗り、千葉方面に向かって3駅。北側にはタワーマンションが立ち並び、南にはスカイツリーが見える南千住駅が山谷地区の最寄駅だ。

駅前の街並みは少し陰気で小汚い気もするが、普通の寂れた下町となんら変わらない、至って平和そうな雰囲気だった。

なんて考えつつ、「う〜トイレトイレ」と南千住駅のトイレへ全力疾走すると、そこには驚きの光景。

50代くらいの髭面のオッサンが、小便器にケツを向け、今にも大便を放出せんと踏ん張っていた。

小便器に大便を放出したオッサンは、僕の存在を物ともせず、ケツも拭かずにズボンを履き直し、さも当たり前のように手も洗わず、そそくさと僕の横を通り過ぎ、トイレから出て行ってしまった。

ああ、なんだろう。なんというか、その、いきなり山谷地区の洗礼を受けてしまった……かな。

 

歩道橋からスカイツリーが見えた

南千住駅の南口を出て、歩道橋を渡って南へ歩く。とにかく南づくしの道程。

歩道橋の上から見えたのは、昭和中期に建てられたと思われる小汚い雑居ビルの街並みと、その向こうにそびえ立つ立派なスカイツリーの威容。格差社会の縮図というか、資本主義の闇というか、弱肉強食の世界というか、そういったものを感じざるを得ない。

 

泪橋交差点を越えて山谷地区に潜入

実を言うと、南千住駅の所在地は台東区ではなく荒川区で、ここまでの道程も荒川区内でのお話。

この泪橋交差点から南側が台東区で、いよいよ山谷地区。道行く通行人はタバコを咥え髭を生やしたオッサンばかりになり、いよいよやってきてしまったという雰囲気。

泪橋という名の通り、かつてこの地には思川という川が流れ、泪橋という橋が架けられていたそう。「泪橋」という悲哀を誘う名の由来は、かつてこの地に処刑場があり、当時の罪人達が涙しながら思川を渡ったことから。ソースはWikipedia大先生。

ちなみに泪橋は「あしたのジョー」にも登場しているらしい。詳細は各自ググれ。

 

セブンイレブン 世界本店

泪橋交差点に店を構えるセブンイレブン日本堤2丁目店。またの名をセブンイレブン世界本店。んなアホな。

このセブンイレブンに「世界本店」なんていうインターナショナルな店名が与えられたきっかけは、かつてこの場所にあった「世界本店」という居酒屋から名前を引き継いだという、至ってシンプルで「なんじゃそりゃ」と言わざるを言えない理由。

ちなみにこの世界本店、噂によるとカップ酒の売り上げが日本一なんだとか。流石は世界の本店だ。

 

おっさん達が座り込んで話していた

泪橋交差点を渡り、適当な路地裏に入る。

おそらく日雇い労働者かなんかだと思われるオッサン達が、酒を持ち込みタバコをふかし、10月の冷たいアスファルトに座り込んで会合を開いていた。

何を話しているのかは分からないが、とりあえず楽しそうではある。と同時に「あんたら車に轢かれても知らんぞ」とも思う。

流石に至近距離でカメラを向けるのは怖いので、30mほど離れたところから思いっきりズームして撮影した。が、所詮はスマホカメラ。まともに撮れたもんじゃない。そもそも、見ず知らずの一般人を無許可で撮影するなんて非常識なんじゃないのか……なんて思いつつ、しっかりブログには掲載していくスタイル。

 

簡易宿所は冷暖房とテレビがステータス

ドヤ街がドヤ街がたる所以、日雇い労働者のオッサン達や、国内外からのバックパッカーが集う簡易宿所。そのほとんどは「旅館」「ホテル」という屋号を持ち、平成も28年になるこの時代に「冷暖房完備」と「テレビ付き」を誇らしげに謳っていた。

「テレビ付き」の文字がいやにカラフルなのは、カラーテレビであることを表現しているのか。また時代錯誤な。

 

「山谷は日雇労働者の街 労働者を排除する再開発反対!!」

 

あしたのジョーのふるさと「いろは会商店街」

山谷地区は「あしたのジョー」の舞台でもあるらしく、アーケードの架けられた「いろは会商店街」とその周辺には、「あしたのジョー」のパネルがわんさか。いわゆる町おこしのつもりなのだろうが、こんな場所を好き好んで訪れる人間なんて、地方や海外からのバックパッカーか、僕のような趣味の悪い冷やかしくらいのものだろう。

アーケードの下では、これまた日雇い労働者っぽいオッサン達が座り込み、酒を持ち寄って会合を開いていた。

たいして日差しも強くなく、それでいて晴れている今日でさえこれなのだから、雨の日ともなれば山谷地区全体から行き場のないおっさん達が集い、たむろしている姿が見られるのかな……なんて思ってみたり。

 

警備員が巡回するスーパー

山谷地区にもスーパーはある。が、おじいちゃんの警備員さんが店内を巡回し、お客さんに「こんにちはー」「お久しぶりですー」なんて声掛けして回っているのを見ると、やはり普通のスーパーではないなと感じざるを得ない。

 

かの有名な城北労働福祉センター

山谷地区に集う日雇い労働者に職を斡旋する城北労働福祉センターは、この界隈では一番の人気スポットだ。

朝には日雇い労働者のオッサン達が職を求めて行列を作り、炊き出しなんかが行われた日には、これまたオッサン達が食事を求めて行列を作るのだという。

何か別段イベントが発生しているわけでもない、この日暮れ前の時間帯でさえも、周囲にはオッサン達が群がり、思い思いにタバコをふかしたり、酒を持ち寄って会合を開いたりと、なかなかに賑わっている様子だ。

 

左翼系のポスターがやたら多い

 

80円自販機

東京は100円自販機の多い都市だ。国内の他都市に比べると、100円自販機を見かける機会が圧倒的に多いように感じる。その東京の中でも一番のスラム街である山谷ともなれば、輪をかけて100円自販機が多くなるのは当然のこと。それどころか、80円自販機なんてものさえあちらこちらに設置されていて、山谷地区に入り浸っていると金銭感覚が狂ってしまいそう。

噂ではどこかに驚愕の50円自販機も設置されているとのことだが、今回は発見できず。

 

激安弁当のまりや食堂

オッサン達が行列を作っていた。どうやら弁当を激安で販売しているようだ。セブンの牛カルビ弁当が年々ボリュームダウン&プライスアップするこのご時世に、110円の弁当、160円の弁当、200円の弁当だなんて。デフレの権化か何かか?

後から調べてみたところ、まりや食堂という名に違わず、その真の姿はキリスト教の伝道所のようだ。

 

ホームレスが住み着く玉姫公園

山谷地区の東の外れ、隅田川にほど近い玉姫公園は、周囲が仰々しい鉄柵で覆われていた。鉄柵の向こうには、ブルーシートとダンボール、新聞紙なんかを使って形作られた家のようなものが立ち並び、一種の村のようなものが形成されている光景が見えた。

まあ、その、つまるところ、ホームをレスしてしまった皆様方のおうちなのだろう。

まずい、ここは刺激が強すぎる。

僕は雪国育ちだ。雪国にはホームレスがいない。冬場の気候があまりにも厳しすぎるからだ。僕は高校を卒業して地元を出るまでの18年間、ホームレスを空想上の存在か何かだと思っていた。

そのくらい縁のない存在だったはずのホームレスが、今まさに僕の目の前で、ブルーシートとダンボールと新聞紙で形作られた家のような何かから顔を出し、上半身を露出して、ボロボロのタオルで体を拭こうとしている。

ダメだ、来てはいけない場所に来てしまった。ここは僕が来るべき場所ではなかった。そう思い、南千住の駅へ戻ろうとしたときのことだ。玉姫公園の脇の十字路でばったりとエンカウントした二人組のポリスメンに「すみませーん!ちょっといいですかー!」と声を掛けられたのだ。

「この辺りに住んでる方ですか?」

「いえ」

「あーそうですか。今日はどういったご用事でこの辺りに?」

「僕、仙台からこっちに遊びに来てて、しばらく友達の家に泊まってたんですけど、今日だけはどうしても泊まれないみたいで。それで、このあたりに安宿が多いって聞いて来たんですけど」

適当な嘘を付いて誤魔化す。まさか「有名な山谷地区がどんなものなのかと冷やかしに来ました」なんて言うわけにもいかない。ちなみに「しばらく友達の家に泊まってたんですけど」のくだりは本当のことだ。ちなみにこの日も友達の家に泊まった。ありがとう、わがソウルフレンド藍川くん。

「ちなみにおいくつですか?」

「18です」

「あー、あの、家出とかじゃない……ですよね?」

「ええ、はい。元から一人暮らしです」

「あー、ですね。免許証の住所が青森で、学生証の住所が仙台だから、進学して一人暮らしですか?」

「はい、そんなところです」

確かに僕の歳を考えたら、家出してはるばる東京へ来ているという可能性も否めないだる。今は夏休みシーズンでも冬休みシーズンでも、はたはた春休みシーズンでもなく、しかも今日は平日だ。そんな日に仙台の学生である僕が、東京の、しかも山谷なんて場所を徘徊しているのは、不自然極まりないことなのだ。

「あーそうですか。いやーすみませんね、ここら辺じゃあんまり見ない顔だったんで、ちょっと声を掛けたんですよ」

「あーはいはい」

どんな理由だ。あんたら、山谷の住人全員の顔をいちいち覚えてるのか。だとしたら素直に尊敬だ。北朝鮮の住人が偉大なる金日成大元帥にマンセーを送るくらいの勢いで賛美を送りたい。マンセー、マンセー、マンマンセー。

 

で、逃げる

18年間の人生で1年ぶり3度目の職務質問を受け、すっかり怖気付いてしまった僕は、すごすごと山谷地区から退散し、元来た道を通って南千住駅へ向かった。

行きでは山谷地区の向こう側にスカイツリーが見えた歩道橋から、今度は汐入地区の立派なタワーマンション群が見えた。

北には林立するタワーマンション群、南にはスカイツリーの威容。そして間に山谷のスラム。東京という街は残酷だ。

あのタワーマンションには、どんな人が住んでいるのだろう。きっと幸せなファミリーなんかも多く暮らしているのだろうな。あそこに住んでいる子供達が大きくなって、自転車なんかを乗り回し始めたとき、もし何かの間違いで山谷地区に迷い込んでしまったとしたら、路上に座り込み、酒を持ち寄って会合を開くオッサン達の姿を目の当たりにしたとき、子供達は何を思うのだろうか。

そんなことを考えつつ、僕は電車に乗って九段下の図書館へ向かい、iPadにBluetoothキーボードを接続して、この記事を書いたのだった。

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